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ヒット商品は
「仕上げ方」で決まる

消費者視点で市場をつくる
わくわく商品開発

忽那 公範
株式会社わくわく商品開発研究所

 

 

はじめに 商品開発を、もう一度わくわくする仕事に

商品開発は、本来とてもわくわくする仕事です。まだ世の中にない価値を考え、それを技術や素材と結びつけ、生活者の毎日を少し便利にしたり、気持ちを豊かにしたりする。自分たちが考えた商品を店頭で見つけ、使った人から「これ、いいね」と言ってもらえる。これほど手応えのある仕事は、そう多くありません。

ところが実際の開発現場では、競合品との性能比較、コスト、社内調整、会議、承認資料に追われ、「何のための商品なのか」が見えにくくなることがあります。性能を上げた。スペックを増やした。価格を下げた。それでも売れない。そんな経験をした人も多いでしょう。

私が長い商品開発の経験から強く感じているのは、ヒット商品は必ずしも画期的な新技術から生まれるわけではない、ということです。すでに社内にある技術や素材でも、誰の、どんな場面で、どんな価値として届けるかを変えるだけで、まったく新しい商品に生まれ変わることがあります。私はこれを「技術の仕上げ方」と呼んでいます。

本書では、消費者インサイトの読み方、商品コンセプトの作り方、埋もれた技術の生かし方、そして社内でプロジェクトを前に進める方法まで、現場で使える形でまとめました。難しい理論を覚えるための本ではありません。明日の会議、次のインタビュー、次の商品企画から試してもらうための本です。

商品開発は、技術を作る仕事であると同時に、技術を「生活者の価値」に仕上げる仕事です。

 

 

目次

第1章 ヒット商品には「型」がある

第2章 消費者インサイトは「なぜ、なぜ、なぜ」で掘る

第3章 技術は「仕上げ方」で市場になる

第4章 3%のイノベーターから始める

第5章 商品コンセプトを生む8つの視点

第6章 価格・使用感・使い方まで含めて商品価値をつくる

第7章 プロジェクトを動かす「仲間」のつくり方

第8章 商品開発者の感性を磨く

終章 小さく生んで、大きく育てる

付録 商品コンセプト開発チェックシート

★商品チェックリスト

★商品コンセプト作りの時に役立つ20のヒント

​

 

第1章 ヒット商品には「型」がある

1 商品の3つのタイプを見極める

新製品を考えるとき、最初に確認したいのは「自分たちは何種類目の商品を作ろうとしているのか」です。商品には大きく三つのタイプがあります。

第一は、既存カテゴリーの中で性能と価格を競う商品です。洗浄力が高い、容量が多い、価格が安い、といった競争です。市場が分かりやすい一方、競合も多く、パフォーマンス・バイ・コストの勝負になりやすい領域です。

第二は、既存の目的はそのままに、新しい訴求、使い方、使用感などを提案する商品です。既存市場が存在して、市場の中で新しい提案がある主賓。たとえば「メイクを落とす」という既存の目的に対して、シートで拭くだけという新しい使い方を持ち込む。このタイプは消費者が用途を理解しやすく、新しさも伝わりやすいため、ヒットにつながりやすいと考えています。

第三は、そもそも習慣が存在しない、市場をつくる商品です。これは理解されるまで時間がかかります。しかし生活習慣そのものを変えることができれば、大きな市場になります。開発の難易度も、発売後に必要な情報発信も、第二のタイプとはまったく違います。

失敗の一つは、第二のタイプを作っているつもりで、ネーミングや見せ方によって第三のタイプにしてしまうことです。自分たちの商品がどのタイプなのかを最初に言葉にしておく。それだけで、調査の読み方も、価格も、広告も変わります。

実践の問い:あなたの企画は、既存競争・新価値提案・新市場創造のどれですか?

2 戦う土俵を間違えない

同じ技術でも、どのカテゴリーで戦うかによって価値は変わります。「メイクも落とせる洗顔料」と「洗顔しなくてよいメイク落とし」は、似た機能を持っていても消費者にとっての意味が違います。前者は洗顔料の性能競争、後者はメイク落としの手間を減らす価値競争です。

開発者は技術の中身をよく知っているため、つい「何ができるか」から考えます。しかし生活者が見ているのは「自分の生活がどう変わるか」です。競合は同じ棚の商品とは限りません。カテゴリーをまたいで、同じ困り事を解決する商品すべてが競合になり得ます。

そこで私は、企画の初期に「この商品は何と比較されるのか」「生活者は何の代わりとして使うのか」を考えることを勧めています。戦う土俵が決まれば、必要な性能の水準も、伝える言葉も見えてきます。

3 0.3歩先がマスヒットを生む

新しければ新しいほどよい、とは限りません。特にマス市場を狙う場合、生活者の一歩先を行く提案は「よく分からない」に変わりやすい。半歩先でも遠いことがあります。

私の感覚では、マス商品は「0.3歩先」くらいがちょうどよい。今までと明らかに違う。しかし説明を聞けば、すぐに自分の生活に置き換えられる。その程度の新しさです。

価格も同じです。普段600円の商品を買っている人に、いきなり1200円の商品を勧めれば別カテゴリーに見えます。しかし780円なら「少し高いけれど試してみよう」と感じる人が出てきます。新しさも価格も、生活者が渡れる小さな橋を架けることが大切です。

 

 

第2章 消費者インサイトは「なぜ、なぜ、なぜ」で掘る

1 「欲しいもの」を聞いてはいけない

消費者に「何が欲しいですか」と聞いても、市場をつくるような答えはなかなか出てきません。生活者は、まだ存在しない商品の完成形を言葉にする専門家ではないからです。

聞くべきなのは商品案ではなく、行動です。なぜその商品を選んだのか。なぜその場面で使ったのか。使わなかった日は何が違ったのか。何と比べて満足したのか。そこに本人も明確には意識していない価値観が隠れています。

商品開発者の仕事は、答えを集計することではなく、答えの奥にある理由を発見することです。

2 「しっとりしました」で終わらない

インタビューで「とてもしっとりしました」と言われたら、そこからが本番です。いつ、どの瞬間にそう感じたのか。普段は何に困っているのか。どのくらい続けば満足なのか。なぜ、しっとりしている必要があるのか。

たとえば「入浴後一時間くらいで乾燥して、いつもミストを使う。でもこの商品ならミストが要らなかった」という話まで出てくれば、「しっとり」という抽象的な評価が、生活上の具体的な価値に変わります。追加で使っていた商品の手間や費用まで減るなら、価格を上げられる可能性もあります。

「なぜ」を三回繰り返すのは、質問技法というより、価値を具体化するための思考習慣です。もっと回数を増やしてもいいです。新し発見を見つけるまでしてみてください。

3 消費者は「自分」だけではない

「自分が欲しいものを作れ」という言葉は分かりやすいのですが、今の市場では危険でもあります。ターゲットが細分化された時代に、自分自身が狙うべき生活者とは限らないからです。

家族、友人、知人との雑談で商品アイデアの核を話してみる。そこで強く反応する人を観察する。なぜその人に刺さったのかを考える。年齢や性別だけでなく、生活習慣、価値観、困り事まで見ていく。その人物像が、次の調査で会うべき人の条件になります。

消費者視点とは「自分を消費者だと思うこと」ではありません。自分とは違う人の価値観を、自分の中に取り込めることです。

 

 

 

第3章 技術は「仕上げ方」で市場になる

1 既存技術は宝の山

大企業には、世に出ていない技術や、過去に一度商品化したものの売れなかった素材が大量にあります。私はそこに大きな可能性があると思っています。

技術が悪かったから売れなかったとは限りません。ターゲットが曖昧だった、使う場面が違った、容器が合っていなかった、情報の伝え方が弱かった。つまり「技術の仕上げ方」が十分でなかった可能性があります。

新しい技術をゼロから作る前に、過去の商品や眠っている素材を見直す。誰なら一番価値を感じるか。どんな場面なら特徴が最大になるか。何のカテゴリーなら弱点が問題にならないか。これだけで新しい企画が生まれることがあります。

2 旅行用品を日用品に変える

シート状のメイク落としを考えてみましょう。旅行用の10枚入りなら、使うのは旅行のときだけです。しかし枚数を増やし、家庭の鏡台やリビングに置きやすい容器にすれば、「毎日のメイク落とし」という商品に変わります。

中身の技術が大きく変わらなくても、容量、容器、置き場所、使う場面を変えることで、消費者価値は変わります。これが仕上げ方です。

技術者から見れば同じものでも、生活者から見れば別の商品になる。商品開発では、この視点の切り替えが非常に重要です。

3 NGスペックはカテゴリーを変える

ある用途では不十分な性能でも、別の用途なら十分以上ということがあります。自動車や住宅では10年単位の耐久性が求められる素材が、日用品ならそこまで必要ないかもしれません。

「この技術はスペック不足だから使えない」と結論を出す前に、「どのカテゴリーなら、この性能がちょうどよいか」と問い直す。弱点を直すだけが開発ではありません。弱点が弱点にならない市場を探すのも、立派な商品開発です。

 

 

第4章 3%のイノベーターから始める

1 マス調査で低評価でも諦めない

新しい価値を提案する商品ほど、最初は多くの人に理解されません。マス調査をすると平均点が低い。社内の幹部にも「誰が使うのか」と言われる。そこで丸く修正すると、新しさそのものが消えてしまいます。

重要なのは、平均点ではなく「ぜひ使いたい」と強く反応した少数の人です。その人たちはなぜ欲しいのか。どんな生活をしているのか。何に困っているのか。一人ずつ深く見ていくことで、最初の市場が見えてきます。

実践の問い:平均点ではなく、強く反応した少数者を分析していますか?

2 3%まで絞る

私は経験的に、最初のターゲットを3%程度まで絞るくらいの気持ちでよいと考えています。もちろん3%という数字に学術的な根拠があるわけではありません。大切なのは「みんな」を狙わないことです。

強く欲しい人が少数でも存在し、その人たちが価格が高くても買ってくれるなら、事業として健全なスタートを切れます。その人たちが体験を語り、共感する人が増えれば、商品は小さく生まれて大きく育ちます。

3 共感が市場を広げる

現代は、広告だけで一気にマスを動かすより、使った人の体験が次の人に伝わる力が大きくなっています。そのとき伝わるのは機能の数字だけではありません。「自分の生活がこう変わった」という物語です。生活者を説得するのではなく、納得できるストーリーを商品情報として発信することが、結局多くの人に広がっていきます。

だからこそ、最初の利用者が深く感動する商品を作ることが重要です。浅く広く好かれるより、狭く深く刺さる。そこから共感の輪を広げる。市場創造型商品では、この順番が大切です。

 

 

 

第5章 商品コンセプトを生む8つの視点

1 場面を変える

カテゴリーの常識的な使用場面を外して考えます。シャンプーなら風呂場だけでなく、焼肉のあと、運動のあと、外出先など「髪を洗いたい瞬間」を探す。水がないなら、シートやミストという発想が生まれます。場面を変えると、必要な技術の形も変わります。

2 カテゴリーを変える

別カテゴリーの技術を持ち込みます。メイクの「きれいに見せる」技術をスキンケアに応用する、といった考え方です。ただし持ち込みすぎると元のカテゴリーに見えなくなるため、「どこまでなら生活者が自然に受け入れるか」という仕上げが必要です。

3 過去の商品を分析する

過去の失敗商品には、企画の種が残っています。発売時にどこで妥協したのか、なぜ習慣化しなかったのか、何が面倒だったのかを分解します。ゼロからアイデアを出すより、失敗の原因を一つ直すだけで魅力的な商品になることがあります。

4 消費者行動を「なぜ」で掘る

購入理由、使用頻度、使用場面を聞いて終わらず、その行動を生んだ価値観まで掘ります。数字は入口です。商品コンセプトは、数字の奥にいる一人の生活者を具体的に想像できたときに強くなります。

5 商品のタイプを間違えない

既存カテゴリーの新価値提案なのか、新しい市場そのものを作るのかを明確にします。商品名やデザイン一つで、生活者の認識するカテゴリーが変わることがあります。市場創造型になれば、発売後の説明量も時間も必要です。

6 NGスペックの居場所を変える

ある市場では採用できない素材でも、要求水準の違う市場では武器になります。技術を改善するだけでなく、技術が生きる市場を探す。この発想はBtoB企業の商品開発で特に有効です。

7 0.3歩先を狙う

マス市場では「少し新しい」が強い。理解するための学習コストを生活者に負わせないことです。一方、尖った少数ターゲットを狙うなら一歩先でもよい。新しさの距離はターゲットによって変える必要があります。

 

8 街の変化を感じる

商品開発者は街を歩くことも仕事です。何を持っているか、どんな店に人が集まるか、値段がどう変わったか、何が当たり前になったか。定点観測すると、社会の価値観の変化が見えます。情報を読むだけでなく、自分で体験することで感性は磨かれます。

 

 

第6章 価格・使用感・使い方まで含めて商品価値をつくる

1 効果だけが商品力ではない

日用品の商品価値は、効果だけでは決まりません。使い方、使用感、容器、置き場所、持ち運びやすさ、香り、そして価格まで含めた総合力です。

大企業ほど性能向上に集中し、コストをかけて高性能にした結果、生活者にとっては「そこまで要らない」商品になることがあります。逆にイメージだけでも長続きしません。技術と生活者価値の両方を見ながら、全体を仕上げる必要があります。

2 価格は最後に決めない

開発が進んでから原価を計算し、「この価格では売れない」と気づくのは遅すぎます。価格はコンセプトの一部です。

少し高いが試してみたい価格、ワンランク上に見える価格、別カテゴリーに見える価格では、生活者の期待も比較対象も変わります。コストを下げられないなら、価値を上げて価格を正当化する方法を途中からでも考えるべきです。

3 「出来ない」は新市場の入口

会議で「そんなことは出来ない」「それが当たり前だ」と言われたら、その言葉をメモしてください。常識の裏側には、まだ解決されていない不便があります。

新しい軸の商品は、既存商品の80点と比べる必要はありません。今までゼロだった価値なら、最初は3点でも生活者にとって意味があります。完成度を上げることだけでなく、価値の存在を早く世に出すことが重要な場合があります。

実践の問い:この考え方を、現在の開発テーマに当てはめると何が変わりますか?

 

 

第7章 プロジェクトを動かす「仲間」のつくり方

1 プロジェクトには3人必要

新しい商品を出したいと強く思う人。その思いを理解して一緒に動く仲間。そして二人を理解して「やってみたら」と言える上司。この三つの役割がそろうと、プロジェクトは動きやすくなります。

一人の情熱だけでは長期戦を乗り切れません。今の企業では、研究、生産、マーケティングなど部門の壁を越えて「仲間になる人」をどう増やすかが重要です。

2 クロスの法則

自分の上司への説明が難しいとき、他部門の仲間に同席してもらう。逆に仲間が困っていれば、自分がその人の上司への説明を手伝う。これを私は「クロスの法則」と呼んでいます。

上司と部下の一対一では、立場の力が会話を支配することがあります。第三者が一人加わるだけで、議論が「会議」になり、論点を客観的に扱いやすくなります。部門を越えて互いのプロジェクトを支える関係を作ることが、結果として消費者に良い商品を届ける近道になります。

3 上司の上司には30秒で話す

直属の上司は、日々のミスや進捗を確認する立場です。一方、さらに上の立場の人は「誰が次のリーダーになれるか」「誰が前向きな提案をしているか」を見ていることがあります。

廊下やエレベーター、食事の場などで機会があれば、30秒で自分の前向きな考えを話せるようにしておく。正式なプレゼンではなくても、短い対話の積み重ねがプロジェクトの理解者を増やします。

4 魔法の言葉を使う

プロジェクトでは、論理だけでなく人の気持ちが動力になります。「ありがとう」「やってみよう」「あなたらしく」「なんとかなる」。こうした言葉は、距離を縮め、承認されている感覚をつくり、挑戦への心理的な壁を下げます。

完璧なリーダーシップ理論より、日常の一言のほうがチームを動かすことがあります。

5 言いたいことは3つ

プレゼンで情報を増やしすぎると、判断する側は何を決めればよいか分からなくなります。結論は一つ、要素は多くても三つ。十個言いたいことがあるなら、三つの大項目に整理する。

商品コンセプトも同じです。魅力を足し算するのではなく、「この商品は何なのか」が一言で伝わる状態にする。絞る勇気が、プロジェクトの速度を上げます。

第8章 商品開発者の感性を磨く

1 真面目な雑談をする

雑談は仕事の反対ではありません。商品開発者にとって、雑談は生活者の価値観を学ぶ重要な時間です。

担当カテゴリーの資料だけを読み続けていると、知っている世界の中で答えを探すようになります。家族や友人、異業種の人と話すことで、自分にはない判断基準に触れる。そこから「なぜそんなことをするのだろう」という問いが生まれます。

ただし、雑談中も頭の片隅に商品開発のアンテナを立てておく。それが「真面目な雑談」です。

2 自分がわくわくする商品像を持つ

開発者自身がわくわくできない商品で、生活者を感動させるのは難しい。ここでいう「自分」とは、自分一人の好みではありません。日頃から多くの人の価値観を聞き、自分の中に複数の生活者を持つことです。

その感性が育つと、商品像を考えたときに「これは面白い」「これは生活が変わる」と直感できるようになります。直感は突然生まれるものではなく、日常の観察と対話の蓄積です。

3 積分の法則

経験は、ただ年数を重ねれば増えるわけではありません。成功も失敗も、原因を分析して初めて自分の中に蓄積されます。

私はこれを「積分の法則」と考えています。若いうち、あるいは新しい役割についた早い時期に、短期間で多くの挑戦をする。そこで得た能力を、その後長い期間使えば、時間×成果の総量は大きくなります。

失敗を人や運のせいにせず、「消費者の読みのどこを間違えたか」「仕上げのどこが弱かったか」を考える。経験を経験のまま終わらせず、次に使える知恵に変えることが大切です。

 

 

終章 小さく生んで、大きく育てる

ヒット商品を作ろうとすると、最初から大きな市場を狙いたくなります。しかし市場創造型の商品ほど、最初から全員に理解してもらおうとすると特徴が薄くなります。

まず、強く困っている人を見つける。その人の行動を「なぜ、なぜ、なぜ」で理解する。眠っている技術を、その人の生活価値に仕上げる。使う場面、カテゴリー、容器、使用感、価格、伝え方まで一つのコンセプトにまとめる。そして、その価値を理解してくれる仲間と社内で前に進める。

商品開発の中心に置くべきなのは、競合でも技術でも会議でもありません。生活者です。生活者が「こんなのが欲しかった」と感じる瞬間を想像できれば、開発者自身もわくわくします。

わくわくは、精神論ではありません。生活者に新しい価値を届けられる可能性を感じているサインです。その感覚を大切にしながら、小さく生んで、大きく育てる商品開発に挑戦してほしいと思います。

技術 × 消費者インサイト × 仕上げ方 × 仲間 = 市場をつくる商品

 

 

付録 商品コンセプト開発チェックシート

項目

確認すること

チェック

ターゲット

誰が最も強く欲しがるか。年齢・性別だけでなく生活習慣まで描けるか。

□

インサイト

その人はなぜその行動をするのか。「なぜ」を深堀したか。。

□

商品タイプ

既存競争、新価値提案、新市場創造のどれか。

□

場面

いつ、どこで、何の前後に使うか。場面を変える余地はあるか。

□

カテゴリー

別カテゴリーとして見たほうが価値が高まらないか。

□

技術・素材

過去の失敗技術、NG素材、既存技術を再利用できないか。

□

総合価値

効果、使用感、使い方、容器、携帯性などを総合しているか。

□

価格

生活者が感じる価値と価格が一致しているか。

□

新しさ

マス狙いなら0.3歩先になっているか。

□

初期顧客

強く反応する3%程度のイノベーター像が見えるか。

□

伝達

機能ではなく「生活がどう変わるか」を一言で言えるか。人にいいたくなるか。

□

社内推進

思う人、仲間、理解する上司の3者がいるか。

□

 

 

 

第9章 開発物語で学ぶ「仕上げ方」

ここからは、実際の商品開発で起きた成功と失敗を振り返ります。成功談だけを並べるのではなく、「なぜ売れたのか」「なぜ売れなかったのか」「今ならどう仕上げ直すか」を考えることで、商品開発の再現可能な知恵に変えていきます。

事例1 濡れた手で使えるメイク落としジェル

この商品の出発点は、「濡れた手でも使える商品を作ろう」という明確な企画ではありませんでした。既存の泡立つメイク落としについて、夏のメイクが落ちにくいという課題を研究に投げたところ、研究側から泡立たないもののメイク落ちのよい技術が出てきました。さらに使いやすいようジェル状に仕上げ、消費者調査をすると、「濡れた手で使えるのがいい」という声が強く出ました。

ここで重要なのは、開発者が想定していなかった価値を消費者が発見したことです。寒い脱衣所でメイクを落としてから風呂に入る不便、濡れた手では従来品が使えない不便。生活者が「あきらめていた不便」が、商品の中心価値になりました。

さらに、商品名を洒落た「クレンジングジェル」ではなく、誰にでも意味が分かる「メイク落とし」とする考え方、そして「名前→キャッチコピー→裏面説明」という情報の優先順位を設計した経験は、その後の商品開発の大きな財産になりました。

学び:技術の狙いと、消費者が感じる価値は一致するとは限らない。調査では予定した答えを確認するのではなく、想定外の反応を拾う。

事例2 泡で出てくる洗顔料――新しすぎる商品の落とし穴

台所用洗剤にあった「泡で出てくる」仕組みを洗顔料に応用し、きめ細かな泡が簡単に作れる商品を開発しました。調査では驚きも大きく、開発側には「これはヒットする」という手応えがありました。しかし結果は期待通りではありませんでした。

当時の生活者には、「顔の上で泡立てることが、きちんと洗うこと」という暗黙の常識がありました。泡の完成形が最初から出てくる便利さが、逆に「本当に汚れが落ちるのか」という不安につながったのです。

さらに調査の質問も教訓になりました。「汚れ落ちに満足か」と聞けば高い評価でも、「汚れ落ちがよいと実感するか」では評価が違う。質問の言葉一つで、発売判断が変わり得ます。

学び:製品性能だけでなく、生活者の“行動の常識”を変える商品かどうかを見極める。

事例3 日焼け止め――市場が育つまで待つ

1990年代前半、日焼けに対する生活者の意識は現在とは違っていました。高性能の日焼け止めを作ったからといって、すぐ巨大市場になるとは限りません。そこで発売直後から大きな広告投資をするのではなく、小さく利益を出しながら市場の変化を待つ考え方を取りました。

その後、紫外線に対する意識が変化し、市場そのものが成長していきます。商品開発では「商品力」と「市場の成熟度」を分けて考える必要があります。また、SPFのような数字も、高ければ高いほど生活者価値が高いとは限りません。オーバースペックを競うより、その数字が生活の中で何を意味するのかを説明することが重要です。

学び:良い商品でも、時代が早ければすぐには売れない。市場の成熟速度に合わせた投資設計が必要。

事例4 クールタイプ洗顔料――季節とポジショニング

競合への対抗として、メントールによる清涼感のある洗顔料を開発しました。しかし開発スケジュールの都合で、冬に「どの程度のスースー感がよいか」を調査することになりました。季節が違えば、同じ刺激でも評価は変わります。季節商品は、実際に使う季節に評価しなければ本当の使用感は読み切れません。

また同じ製品でも、「夏の涼しい洗顔料」と位置づければ季節商品になり、「さっぱりタイプ」と位置づければ通年商品になり得ます。中身だけでなく、どんな意味を与えるかによって事業性まで変わります。

学び:商品を仕上げるとは、処方を決めることだけではない。季節、売場、定番化まで含めてコンセプトを設計する。

事例5 水状洗顔料――性能がよくても“見た目”で負ける

化粧水のような水状の洗顔料は、泡立ちも早く、洗い上がりもさっぱりしていました。しかし、水のような外観そのものが「洗浄成分が少なそう」「薄めたように見える」という印象につながった可能性があります。

ここから学んだのは、商品の実際の性能と、見た瞬間に生活者が推測する性能は別物だということです。さらに、売場では特徴が伝わり、家で使うときはシンプルに見える包装を考えるなど、「買うとき」「使うとき」「保管するとき」「捨てるとき」まで商品体験を設計する視点につながりました。

この商品は、0.3歩先ではなく一歩先に行きすぎた商品でもありました。一歩先の商品には、3~5年かけて市場を育てる覚悟と投資設計が必要です。

学び:中身の性能だけでなく、見た目から受ける“性能イメージ”まで設計する。一歩先の商品を短期採算で評価しない。

事例6 男性用洗顔料――ターゲットを絞ると、逆に広がる

男性用洗顔料では、研究・開発・マーケティングが一体になり、非常に短期間で商品化を進めました。男性の洗顔行動や使用感をデプス調査し、男性にとって分かりやすい特徴に仕上げました。

興味深かったのは、発売後に女性ユーザーも現れたことです。「男性用だから皮脂に効きそう」「さっぱりする」という明確な特徴が、想定外の人にも理解されたのです。

ターゲットを広く設定すれば売れる範囲が広がる、とは限りません。むしろ特徴を鋭くし、誰のための商品かを明確にすると、その価値を自分にも必要だと感じる人が自然に入ってきます。

学び:ターゲットを絞ることと、市場を狭めることは同じではない。強い特徴はターゲット外にも伝播する。

事例7 ハンドラップ式化粧水――初回購入よりリピートを見る

コットンをポンプ上部に当てて押すだけで化粧水が染み込むユニークな容器は、発売時に大きな注目を集めました。しかし新しさや便利さだけでは、長期のロイヤルユーザー化には十分ではありませんでした。

新奇性の高い商品には、「面白いから一度買う」人が集まります。その人たちは次の新商品にも移りやすい。だから、一度使ったら元に戻りたくなくなるような本質的価値が必要です。

今この容器を使うなら、「片手で使える」という価値から生活場面を発想し直せます。歯磨きをしながら、忙しい朝に、別の美容剤に、といった具合です。過去の商品も、時代と場面を変えれば新商品になります。

学び:新奇性は初速を作るが、リピートは本質価値が作る。過去商品は“今なら何の価値になるか”で再評価する。

事例8 ティント乳液――カテゴリーをまたぐと市場が広がる

乳液と薄いファンデーションの中間に位置するティント乳液は、複数の使い方を生活者自身が発見できる商品でした。化粧下地、日焼け止め、軽いファンデーション、急な来客時の簡単メイクなど、使う人によってカテゴリーが変わります。

一方で、売れた後に別の課題も見えました。一回の使用量や使用頻度が少ないため、一本を使い切るまでが長く、リピート購入の間隔が伸びたのです。発売時の売上だけでは、事業の強さは判断できません。

さらに後継のティントパウダーでは、同じコンセプトを別剤型にしたつもりでも、生活者から見ると従来型ファンデーションの延長に見えてしまいました。技術的なシリーズ化と、消費者が感じるシリーズ性は違います。

学び:一つの商品に複数の自然な使い方があると市場は広がる。ただし使用頻度・使い切り期間まで事業設計に入れる。

事例9 めぐりズム――商品ではなく「新しい常識」をつくる

めぐりズムの出発点は、単品の商品企画ではなく「デイリーヘルスケア」という事業の考え方でした。病気を治すのではなく、毎日の暮らし方を変えることで健康で快適に過ごす。その考え方に、自社に蓄積されていた温熱・血行関連の技術を結びつけていきました。

最初に蒸気温熱技術を見たとき、開発側自身が「カイロと何が違うのか」と感じました。しかしデプスインタビューでは、使用者が繰り返し「気持ちいい」と訴えました。その曖昧に見える価値を捨てず、研究と組み合わせて「なぜ気持ちいいのか」を説明できるようにしていきました。

ここには、商品開発の重要な二段階があります。買う前には科学的・論理的に納得できること。使った後には、また使いたいと身体で感じること。この二つがそろうことで、未知のカテゴリーでも継続購入につながります。

学び:新規事業は「流行市場に入る」ことからではなく、自社らしい理念と既存技術の交点から作れる。感覚価値は、科学で補強すると購入理由になる。

事例10 蒸気でホットアイマスク――常識を変えるまで待つ

アイマスク開発当時、「疲れた目は冷やす」という意識が強く、「目を温める」という習慣は一般的ではありませんでした。そこで商品の広告だけをするのではなく、専門家やメディアを通じて「目を温める」という考え方そのものを社会に広げる必要がありました。

商品仕様でも妥協はできませんでした。初期案は耳掛けがなく、横を向くとずれる。リラックスするための商品なのに、使いにくさがストレスになればコンセプトと矛盾します。耳掛けを実現する難しさがあっても、提供価値から逆算すれば必要な仕様でした。

さらに、肌に貼る製品の安全性、新しい粘着仕様など、社内に前例のない課題を一つずつ突破しました。会議で承認を求める前に、関係者一人ひとりに体験してもらい、商品やプロジェクトのファンになってもらう。新規事業では、この“会議の前の合意形成”も重要な開発技術です。

学び:市場創造型商品では、商品を売る前に常識をつくる。仕様は提供価値から逆算し、社内突破は関係者をファンにするところから始める。

 

 

第10章 開発物語から見えてきた10の原則

1.消費者が言った「想定外の一言」を捨てない。

2.技術の性能ではなく、生活のどこが変わるかを考える。

3.新しさには距離がある。0.3歩先と1歩先では事業計画を変える。

4.新市場創造型と既存市場の新タイプでは、マーケティング方法を変える。

5.商品は中身だけでなく、名前・情報・容器・使い方・見た目まで含めて仕上げる。

6.初回購入を作る「新しさ」と、リピートを作る「本質価値」を分けて考える。

7.自社に眠る技術と過去の失敗商品は、新規事業の宝庫である。

8.市場創造型商品は、商品広告だけでなく「世の中の常識」を変える活動が必要である。

9.社内の前例を突破するときは、論理だけでなく体験と仲間が必要である。

10.成功も失敗も原因を言葉にして初めて、次の商品に使える能力になる。

この10原則は、ビオレ・カリテ領域の開発経験と、めぐりズムという新規事業の立ち上げ経験を一本の線でつないだものです。個々の商品名や時代が変わっても、「生活者を見る」「技術を仕上げる」「市場の成熟度を読む」「仲間と突破する」という本質は変わりません。

​

★商品チェックリスト

1 ブランドとしてユーザーは増えるか?

2 リピートするか?何回もリピートするか?

3 ターゲットは明確化?

    行動、意識、価値観が明確か?

    調査時に、決めたターゲットの項目以外に、意識、行動、価値観の項目を入れて

      クロス集計でトップ40%以上になるターゲットを把握しておく

4 ターゲットが自分の商品とわかる表示はあるか?

5 商品アイテムを使いした時に、ブランド全体の売上が半年後後アップしてるか?

6 セルイン月の売上は目標に達成したか?

    バイヤーに説明する資料のレベルチェック   販売見込みの精度を高める

7 3~6か月後の売上は高いか?

8 商品のタイプを認識してるか? (別途説明)

    パフォーマンス/コスト型、既存市場で新しいタイプの商品、新市場創造型

      ⇒マーケィングの方法が違う

    新しいタイプ、市場創造型は値段高くても買ってくれる商品コンセプトになってるか?

9 商品の訴求は「納得型」か「説得型」か?

    説得型を売るには巨額の広告費(数十億)が必要(覚悟が必要、中途半端ならムダ)

    納得型が効率がいい

10 商品の訴求レベルを把握してるか?

    1歩先はついてこない(これが説得型になりがち)

    0.3歩先が、ちょうど、新しく、魅力的で、納得されやすい

11 訴求と実感が合ってるか?

​

​

​★商品コンセプト作りの時に役立つ20のヒント

①【発想転換力】視点をズラして新価値を生む

      視点・文脈・使い方を変えることで、既存商品を再定義する。

 

1 場面を変えて考える

2 カテゴリーを変えて考える

3 使い方を変えてみる

4 NGスペックはカテゴリーを変えると活きる

5 通常の真逆から発想する

 

②【本質洞察力】消費者と市場を深く読む

      「なぜ買うのか?」を徹底的に掘る思考群不満・欠点・欲望の裏にある本質を見抜く。

 

6 消費者の行動をなぜなぜなぜと考える

7 ニーズを提案する

8 そのカテゴリー、商品の欠点から考える

9 欲望を叶える要素を考える

③【価値進化力】満足を超えて感動へ

       「少し先」「少し上」で勝つ思考。大革命でなく、半歩先の価値進化。

 

10 0.3歩先のコンセプト

11 満足から感動、期待から意外へ

12 ネガティブ解消からポジティブの強化

13 当たり前の不便さを少しでも改善

14 新しさ、差別化にこだわる

 

④【商品設計力】売れる総合力をつくる

      「いい製品」と「売れる商品」は違う、を理解する思考群スペックではなく“価値設計”。

 

15 商品のタイプを間違えない

16 商品は効果・使用感・使い方などの総合力

17 製品と商品の違いを理解する

18 機能・性能を価値に変換する

⑤【応用・融合力】過去と他分野から学ぶ

       「歴史」と「異業種」からヒントを取る思考群成功例は資産。技術の横展開は差別化の源泉。

 

19 過去の商品分析をする

20 別の商品に使われている技術・コンセプトを活用する

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